指圧

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もし私が父を好きだったら、指圧師にはなってなかったと思います。子供のころからよく怒鳴られ殴られていたので、厳しい父が怖くて嫌いでなりませんでした。勉強に興味はないけど、親元を離れたい一心で進学を熱望し、大学に行かせてもらい、一人暮らしをしました。何とか東京で自立して生活するために風呂なしアパートに住み、仕事とアルバイトでわずかずつでも貯金したのは、絶対に親に頼らないで生きることを決めていたからです。貯金を使って海外を一人で旅する楽しみを見つけて、全世界を制覇しようと思ったのも、ある意味で親からの逃避でした。初めて指圧マッサージを知ったのはネパールで、日本人バックパッカーの鍼灸師さんとの出会いがきっかけでした。この仕事なら時々海外に遊びに行くことができる!と思って学校に行きました。それまでは世間知らずで、仕事は毎回二年くらいでケンカして辞めていましたが、指圧は単なる生活費稼ぎではなく、人に喜んでいただけるものだということに気づき、この仕事を好きになりました。以来、辞めたいと思ったことはありません。
もし昔から父が優しくて居心地の良い家だったら、いったいどんな人生を送っていたか想像もつきません。今となっては自立心を最大に引き起こしてくれた父に感謝の気持ちでいっぱいです。もちろん逃避する必要もなくなり、バックパッカーはやめました。
もし今後、嫌いな人や苦手な人ができても、それはたぶん無駄じゃないんだろうなあと思います。縁ある限り、指圧の仕事を続けたいです。