今が一番幸せ

TS3W0336
初めて実家を離れたのは大学時代、外食をあまりしない家で育った私は、そこで珍しいものや美味しいものをいくつか発見しました。
もちろん貧乏学生ですから、食事はほとんど自炊かバイト先のまかないでしたが、たまに先輩や知人にご馳走してもらう機会がありました。
本格的なカレー、人が握るお寿司、串揚げ、フレンチ、イタリアンにピザなどなど実家で見たこともなかった食事、この世にはなんて美味しいものがあるんだろう!と感激しました。
社会人になってからも、当時流行ったしゃぶしゃぶ屋さん、一見さんお断りの天ぷら屋さん、ホテルの鉄板焼きや中華、高級すし店、高級焼き肉店、高級和食店など、滅多にないとはいえ、贅沢なお店に連れて行ってもらいました。
そしていつも頭の片隅に浮かぶのが「自分だけがこんなご馳走を食べていては親に申し訳ない」という罪悪感でした。
若い頃、怒って叩いてばかりの父、それを止めてくれなかった母、キライな両親だったにもかかわらず「なんだかバチがあたりそう」ですまない思いに駆られるのが我ながら面白かったです。
昔は本当にお金に苦労したという両親でしたが、今はリタイヤして地味な年金暮らし。
たまに町内会で旅行に行ったり、老人大学やスポーツクラブに通って老後を楽しんでいるようです。
私が心配するまでもなく、時々友達や身内と美味しいものを食べているようで時々自慢の電話があります。
「今が一番幸せ」
一緒にお風呂屋さんに行ったとき、母がつぶやきました。
戦前、戦中、戦後とどれほど苦労してきたのかなんて私には想像もつきませんが、とても嬉しくなりました。
あとで父にそのことを言うと、
「ほーか、お母ちゃんそんなことを言うとったか」
と意外そうでした。
「嬉しい?」
と聞くと、「うん」と嬉しそうに微笑んでいました。
ボケ気味で耳も遠いのに、こういう会話はスムーズなのも不思議です。
来月末、両親に会えるのが楽しみです。