せめて右肩上がりに

hanko
大学を卒業して私が初めて就職したのは地方の銀行でした。
最初に配属されたのは貸付係、お客様にお金を借りて頂き、利息を頂く部署です。
卒業したてで何にも仕事ができませんから、伝票や封筒などに横判といわれる横長の判子を押していました。
その時の上司が面白い方で、
「こらっ!判子を押す時はまっすぐ押せ。もしねじれるんなら、せめて右肩上がりにしろ。間違っても右下がりにするんじゃないぞ!(笑)」
というのです。
もちろんこれは銀行の利益を上げ続けるように数字の縁起をかついでのことですが、数十年経った今でも私はこれを守るようにしています。
領収書や封筒の裏に押すあんのんの住所、名前、電話番号の判子を押す時、
「あっ、右下がりになっちゃった。怒られちゃう!」
と、思わず考えてしまうのです。
三つ子の魂なんとやら、まさかこの上司もこんな小さなことを私が覚えているなんて思いもよらないことでしょう。
二年もしないで辞めてしまった銀行ですが、貸付係の後は出納元方をさせて頂いたので、ありがたいことに札勘定は縦横どちらでもできます。
ATMや両替機の補充も担当していましたので、機械音痴ですが、これだけは苦手ではありません。
ろくに銀行に貢献しないうちに辞めてしまって、私って本当に給料泥棒だったなあ、と非常に申し訳なくなる甘酸っぱい思い出です。
小さなことですが、一生役に立つ?ことを教えて頂いて感謝しています。